プリウス、リコール問題の技術的本質とは?

↑まず、リコール問題についてのトヨタの対応についてはこちらの記事が詳しい。
で、ひとつ気になるのが、


問題となっている4車種では、ABSが作動した際には、この電気式ポンプ
で発生していた油圧から、実際にペダルを踏んだ力で発生する油圧へと
切り替える制御をしていると言う。これは、電動ポンプやソレノイドを
使った場合、ノイズや振動が発生し、従来のモデルではそうした部分に
対し不満の声があったためで、新たに採用した技術。
この部分。そして、今回のリコール対策では、

ABS作動時にメカニカルな油圧へと切り替えるシステムを廃し、従来の
ものと同様、ABS作動時も電動ポンプを使った油圧のままにすることで、
こうした制動力の変化をなくす
とのこと。そして、全国のディーラーで現在行われている、リコールの作業内容は、

改修を行うのはABSのプログラム制御で、実質の書き換え作業時間は
10分ほどだが、あわせてほかに不具合がないかチェックも行うため、
40分程度の時間をいただく
とのこと。つまり、本質的な問題だったのはソフトウェア的な制御の部分のみであり、最初から「ABS作動時も電動ポンプを使った油圧のまま」という実装ならば、今回のような問題にはならなかったハズ。いや、これはもちろん個人的な推測に過ぎないが、おそらくリコールするまでの事態にはならなかっただろう。そもそも、なぜこのような従来型の無難で実績のある制御にせず、わざわざ「ABS作動時にメカニカルな油圧へと切り替える」ようなことをやっていたかと言えば、前述の通り、ABS作動時のノイズや振動を少なくする*1ため。つまり、これもユーザーからの要望に応えようと、良かれと思ってカイゼンしたことが、結果としてトヨタ的、あるいは社会的には改悪になった、というわけである。
ここで、

↑新旧のプリウスのブレーキシステムの比較についてはこちらの記事が詳しい。
おおざっぱにまとめると、旧型は4輪の制動力制御にリニア・ソレノイド・バルブを使っていたのに対し、新型プリウスでは、ABSやESCで使っているのと共通のデューティ制御型ソレノイドバルブを使っていること。そして、電源が落ちたときのバックアップシステムに従来型はバックアップ電源としてキャパシタを備えていたのに対して、新型はキャパシタを廃する代わりに、ドライバーのペダルを踏む力が直接油圧ブースタにて補助されて各輪に伝えられる*2ようになっている。なお、今回のリコールで問題となった、「ABS作動時にメカニカルな油圧へと切り替える」機能はこのバックアップシステムを利用したものと思われる。
では、なぜブレーキシステムをこのように変更したのかと言えば、小型・軽量化とコストダウンのためである。リニア・ソレノイド・バルブは高コストで寸法が大きいが、デューティ制御型ソレノイドバルブならば安くて小さい上に、ABS・ESCと共用できる。また、キャパシタを廃することが出来れば、その分コストも浮くし重量も軽減される。
なお、ここでコストダウンによる安全性軽視が今回のリコールの原因とするのは早計である。なぜなら今回のリコールで問題だったのは、あくまで「ABS作動時にメカニカルな油圧へと切り替える」というソフトウェア的な制御の部分にあるので、デューティ制御型ソレノイドバルブへの変更は関係が無い。バックアップシステムを「メカニカルな油圧へと切り替える」タイプに変更した点については関係が無いとも言えないが、少なくとも「ABS作動時も電動ポンプを使った油圧のまま」という実装にしておけば、今回のような問題は起きなかったハズだ。
というわけで「プリウス、リコール問題の技術的本質」は以上である。


以下余談。個人的には、以上のことが分かって、大変スッキリした気分だ。今回驚いたのは、すでにブレーキ・バイ・ワイヤが実用化されているということ。それどころか旧型プリウスも含めて、街なかにはブレーキ・バイ・ワイヤを実装した自動車がすでに大量に走っている、という事実。それを知ることが出来たのが、今回のリコール騒ぎでの個人的な収穫だろうか。くわばらくわばら。(ぉぃ
なお、サーキット走行の経験がある人は分かると思うが、ブレーキ・バイ・ワイヤかどうかは関係なく、油圧ブレーキにはその仕様としてベーパーロックとフェード現象がつきまとう。いや、ドラムブレーキだとフェードは起きないか。何にせよ、油圧ブレーキというシステムは完璧なものではない。サーキットの最終コーナー手前でずっぽりとブレーキが抜ける可能性だってあるわけだ。そんなわけで、個人的にはこれ以上(現状の油圧ブレーキシステム以上)、ブレーキシステムを複雑化する実装は願い下げだ。他人が書いたソフトウェアなんて信用できるか! まあ、自分が書いたコードよりかは信用できるけど。(ぉぃ
冗談はともかく、システムが複雑になればなるほど、トラブルが起きる可能性は高まる。今回のリコール騒ぎだって、ブレーキシステムが複雑になりすぎた結果、内包する潜在的な問題に気付かずにいたわけだ。まあ、実装した担当者に言わせれば「そんなの当たり前。常識で考えて仕様。気付かないヤツが悪い」と自信満々に答えるであろうが。ワシならそうするし。(ぉぃ

*1:皆無になるのかは筆者には分からない。

*2:アキュムレータに蓄えられた油圧による、2〜3回分くらいの補助付き。