「スカイ・クロラ」ではなぜ戦闘機のレンダリングがセルシェーディングではないのか?

これは前からすごく疑問だったんだけど。今日、HMV渋谷で開催された「スカイ・クロラ」のDVD&BD発売記念イベントで押井監督に直接聞く機会があった&監督から直接答えてもらえたので、さっそくレポートするよ〜
コメントのレスが後回しですみません。ちょっと記憶が新鮮なうちにアップしておきたいので。そのまましばらくご歓談ください。:-) >御調さん&@yuさん

以下、「スカイ・クロラ」の戦闘機のレンダリング(シェーディング)について。いわゆるセルシェーディングを使わない理由。
まず第一に押井監督自身が、セルシェーディングがキライだから。
たとえば森本晃司はそういった表現をしているが、押井監督はセルシェーディングが好きになれないので採用しない、とのこと。自分は森本晃司はもちろん知っているけど、氏の3D作品は知らないので、いまいちピンと来なかったけど。また、セルシェーディングは輪郭線を強調する技術だから、どちらかというと絵(キャラクター)を描く人が好む傾向にある、とか。押井監督は絵を描かないので、その辺にこだわりがないそうだ。思えば、ワシの個人的な知り合い(プログラマ仲間? ヲタク友達?)のN山さんも昔、セルシェーディングに凄くこだわっていた*1けど、N山さんもCG描き(美少女キャラとか)だったなあ、っとそのときちょっと思った。
また、アニメーションではなく、映画としてみた場合、セルシェーディングよりも、通常の3Dレンダリングの方が表現としてリッチなのだとか。セルシェーディングだと輪郭線が強いので、どうしてもキャラクターの抽象表現になってしまう。そこが映画的にリッチな表現にならないのだとか。例えとして、監督が用いたのは、セルシェーディング=浮世絵。通常の3Dレンダリング=油絵。それがこと映画の場合は、後者の方が表現としてリッチになるらしい。
あとは、スカイ・クロラの場合、戦闘機に貼ったマークもかなり枚数を重ねて見せているらしいのだけど。それもセルシェーディングではそういった厚みのある見せ方は出来ない。光源にしても、雲の上の世界であっても、ただ太陽を光源としているだけではなく、雲からの光の反射とか、機体からの光の反射、あるいは現実にはあり得ない、移動する照明などを論理的に設定して、すべてを計算して表現しているらしい。そういった複雑な光の表現も3Dシェーディングの魅力らしい。監督はその制作作業がすごく面白い、と言っていた。
それから、攻殻機動隊(たぶんイノセンスのことだと思うけど)の場合、単純にキャラクターの輪郭線を表現しているだけではなく、面でとらえた光の変化を表現しているのだとか。例えば、冷蔵庫に近づいたときには、冷蔵庫の光が顔の頬に反射して、色が変化している(?)らしい。押井監督は輪郭線自体にも変化がある、という意味で言われたのかも知れないのだけど、その辺のニュアンスが自分は正確に聞き取れなかった。すみません。
イノセンスでは、3Dの背景に2Dのキャラ(輪郭)を重ねる手法を確立して、スカイ・クロラでは、背景もキャラも2D表現だけど、戦闘シーンは戦闘機も背景も3Dだった。2Dと3Dを組み合わせて表現するのが自分のやり方(得意分野?)だ的なことも言われていた。
結局のところ、好き嫌いでそもそもキライだし、映画的な表現としてもセルシェーディングではリッチにならないし、セルシェーディングには全く将来性も感じられない。なので、最初からほとんど迷う余地もなく、セルシェーディングは不採用だったらしい。スタッフからはセルシェーディングも選択肢に入れても良いのでは的な声も少しはあったみたいだけど。全く検討しなかったわけではないが、迷うことなく不採用だったというのが実態だろう。
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あと、イベントの内容とは全然関係ないのだけど、自分の隣でイベントを見ていた(押井監督と川井憲次氏の話を聞いていた)女性が突然、貧血(?)で倒れてめちゃめちゃビックリした。結局、大事には至らなかったみたい(たぶん)だけど、そーゆーときに何も出来ない自分の無力さを実感。

↑こちらに関連記事があります(情報提供 by Ling-mu氏)。

(3/16 23:07、追記)

*1:こだわった結果、自分でセルシェーディングプログラムを作っていた。